ストックオプションが「給与」と見なされる新たな税制、スタートアップ育成に税の壁が立ちはだかる
国税庁がストックオプションに対する最大税率を55%に設定するという新たな見解を示しました。
この見解は税負担増加の一環ではなく、「税金対策の抜け道」を閉ざすものとされています。
しかしながら、スタートアップの育成は政府の重要な目標の一つであり、株式報酬は人材を引きつけるための重要な要素となっています。
日本が米国と比較して使い勝手が劣らないよう、税負担が障壁とならないような改善策が求められています。
スタートアップ界隈での混乱と不安
スタートアップの間では、新たな税務処理についての不安と困惑が広がっています。
「従業員にどの程度の影響が出るのか見通せず、困っている」「新規事業を推進する重要な人材を獲得するための手段として利用していた」といった声が上がっています。
大企業に比べて資金的に劣るスタートアップにとって、現金による報酬は難しく、株式報酬が人材確保の重要な手段となっています。
特に、信託型のスキームはその使いやすさから、近年急速に普及してきました。
しかし、今回の国税庁の見解により、多くの企業が報酬制度の見直しを迫られる可能性が出てきました。
米国と比べて株式購入権が不十分な日本
株式購入権は人材獲得に有効な手段ですが、日本では米国と比較して十分に普及していません。
米国のスタートアップ(シリーズD段階)で働く従業員に与えられる株式購入権プールの割合は、ピッチブックなどによると平均で20%以下であるのに対し、日本では新規公開(IPO)時の平均が10%程度であり、米国の約半分に過ぎません。
その一因として、税制上の優遇が十分に得られないことが指摘されています。
株式購入権は、事前に決められた価格(権利行使価格)で自社株を購入する権利を持ち、時価との差額を利益として得ることができます。
種類によっては、税務上の取扱いが異なります。
一般的な株式購入権は報酬として企業から提供され、税務上は給与となります。
しかし、特定の要件を満たせば税制上の優遇が受けられます。
ですが、企業から見れば、その要件は厳しく感じられることが多いのが現実です。
例えば、行使価格は株主総会で決める必要がありますが、米国では取締役会決議だけで決定できるため、より機動的に動けます。
また、M&A(合併・買収)を選択した場合でも、日本では税制上の優遇が受けにくいです。
さらに、未公開株の価値算定ルールも整備されていません。
2014年に誕生し、普及した信託型
使い勝手の悪さから、2014年に「信託型」が考案されました。
株式購入権を有償で取得している場合、その売却による収入は譲渡収入として扱われ、税率は20%となります。
しかし、信託型では株価が安い時期に発行した株式購入権を「保管」し、後から入社した社員に付与する形になります。
その価値の維持が長期的に可能であるため、最近の投資先では約半数が信託型の導入を検討または導入しているほど、起業家から支持を得ています。
信託型を「抜け穴」と見做していた国税庁
信託型が普及し続ける一方で、国税庁はこの制度を問題視していました。
国税庁は信託型が実質的に企業が無償で権利を付与し、それが労働の対価である給与として課税されるべきであるとの立場を取っています。
つまり、信託型は税負担を軽減する「抜け道」と見なされていたのです。
スタートアップ育成5年計画と矛盾する今回の「実質増税」
岸田政権は「新しい資本主義」を掲げ、スタートアップの育成を目指しています。
政府が2022年11月に策定した「スタートアップ育成5年計画」では、株式購入権に関する税制優遇策の要件を緩和することを含んでいます。
その一環として、今年4月からは最長10年だった権利行使期間を、設立から5年未満の未上場企業では15年に延ばしました。
さらに近い将来、株価の算定ルールも明確化する方針です。
そんな中、国税庁がストックオプションについて最大税率を55%にするとの見解を示したことは、スタートアップの経営者や従業員にとって大きな影響を与えることとなります。
この政策は、スタートアップの成長と人材確保を阻む可能性があり、米国に比べて日本のスタートアップ環境がさらに厳しくなる恐れがあります。
これにより、スタートアップが人材を確保し、事業を拡大するためには、ストックオプションの制度の見直しや新たな対策が求められます。
また、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」や「スタートアップ育成5年計画」にも影響を与え、政策の再考を迫る可能性もあります。
スタートアップは新規事業を推進し、新しい価値を生み出す重要な存在です。
税制の問題はその成長を阻む一因となり得るため、今後の対策や政策の方向性に注目が集まります。
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