インフレと投資

ESG脱炭素でも原油高で資源株好調(2021/6/11)

21年5月の米消費者物価指数は急上昇し、インフレ懸念が高まっているが、日米の株価指数は底堅い。

インフレによる恩恵を受ける銘柄として、年初から日米の石油・資源株の株価が堅調に推移している。
エクソンモービルやINPEX(旧国際石油開発帝石)の年初来からのパフォーマンスは、ダウ工業株30種平均や日経平均といった主要株価指数を上回っている。
ESG重視が叫ばれ、将来的には座礁資産になるとされているにも関わらず、原油高は続いている。
主な買い手はETFで、二酸化炭素排出削減を求める機関投資家も、ETFを経由した間接投資は継続している。
化石燃料から再生可能エネルギーへの転換が促される中、目先の油田やガス田の開発が次々と停止されているが、再生可能エネルギーが主流となるための技術的ブレークスルーが実現する時期は未だに不透明。
再エネに完全移行するまでにまだまだタイムラグがあり、次々と油田開発が停止される中で需給逼迫が続くようであれば、1バレル100ドルを超えるような場面があったとしても不思議ないとされている。

インフレ税90兆円の衝撃 インフレは懸念でなく願望(2021/6/11)

バイデン政権が公表した22会計年度の予算教書にあった、「物価上昇を加味した実質支払利息が27年度までの7年間累計でマイナス8250億ドル(約90兆円)」という記述にも、一部で衝撃となっている。
物価上昇でモノに対する貨幣の勝ちが下がり、実質的な政府の債務負担が減る「インフレ税」が発生する事を意味している。
アメリカ政府の想定では、10年物国際の利回りからCPI上昇率を引いた実質金利は24年までマイナスが続く。
インフレこそが米国の財政を持続可能にしており、連邦政府はもちろん、FRBにとってももはやインフレは懸念ではなく、願望になっている。
政治家は表向き有権者の懐を直撃する原油高に懸表を表明するが、財政の事を考えれば米政府にとって原油高も好都合だといえる。

財政を側面支援する役割を担っているFRBは、テーパリングの開始を市場の想定以上に遅らせる可能性は十分にあり、その場合利ざやが改善しない銀行株にとっては苦しい局面が続くことになる。

日本株市場にもリスク回避の気配(2021/6/4)

2021年現在、米国発のインフレ加速懸念は高まるばかり。
日本市場でも、海外勢が日銀がETFを購入する役目を放棄した今の状況を好機と捉え、先物取引を通じて逃げの準備を整えつつある。
景気敏感株から、インフレや相場変動に強い銘柄へと資金シフトする動きも表面化している。
海外勢は、2021年3月以降、3ヶ月連続でTOPIX先物を売り越している。
特に21年5月の売越枚数は、前年9月以来の高水準に。
2013年春の異次元緩和後、21年5月のETF購入は初のゼロ。
海外勢が先物売りや空売りしやすい環境となっている。

インフレに強い「有形固定資産比率」の高い銘柄に注目集まる

公益事業、不動産、エネルギー、鉄道や電力など「有形固定資産比率」の高い業種は、物価上昇時に資産価値が高まるほか、生活に不可欠なサービスであるため、価格転嫁がしやすい。
ディフェンシブ銘柄でもあり、相対的な値動きが底堅い事も魅力となっている。
TOPIXとの連動性を示すベータ値が低く、リスクヘッジにピッタリとなっている。

世界のREIT 堅調(2021/6/4)

世界のREIT市場に投資マネーが流入している。
「S&PグローバルREIT指数」は1年3ヶ月ぶりの水準を回復し、過去最高値の更新を伺っている。
コロナ禍の巣ごもり需要をきっかけとしてデーターセンター特需に続き、経済活動の再開に伴う商業施設やホテル関連の急回復。
そして何より、インフレ圧力の高まりが不動産価格や賃料の上昇を促す流れとなっている。

「S&PグローバルREIT指数」は、世界的に感染拡大した2020年3月には120を切る水準まで急落していたが、その後の政策支援やワクチンの普及期待で回復基調になり、2021年5月末には206.2となり、コロナ前の2020年2月中旬頃につけた過去最高値の209.3の値に迫っている。

特にデーターセンターや通信関連のインフラは、コロナ直撃の急落局面においても、逆に巣ごもり需要が追い風となって上昇。
2021年に入ってからも需要が途切れる事はなく、依然として有望な投資先となっている。

大型モールなどのショッピングセンターやホテルなどの分野では、ロックダウンや移動制限の影響によって2020年には30%近く暴落していたが、2021年には逆に急上昇している。

商品価格の上昇や物流の停滞によるインフレ圧力の高まりも、REIT市場には追い風となる。
物価上昇が続くと、不動産価格や賃料の上昇にも繋がりやすくなるため、REITはインフレ耐性が高いとされている。
1995〜2021年の期間で、インフレ率が前年同月比2%以上だった局面では、米国REITの収益率平均は4%と、S&P500種株価指数の2%程度を上回るパフォーマンスを記録している。
特に、1年毎など頻繁に契約が更新される住宅や個人向け倉庫や、価格を柔軟に設定しやすいホテル関連では、インフレに強いとされる。

ただ、米国の長期金利への上昇圧力は、資金調達の面では逆風となる。
特に個別銘柄ではリスクが顕在化し、資金繰りの面で危機に陥るところも増えてくると思われる。
2021年2月にはモールREIT大手の米ワシントン・プライム・グループが期間中に利払いが出来なかったとして、同社の株価が大幅下落する局面があった。
郊外のモールは、そもそもコロナ前から不振が目立っており、経済が正常化したところで、全ての銘柄が回復するとは限らない。
インフレに伴い、金利も上昇していく局面においては、より一層選別の目を厳しくしていく必要がある。
19年後半から20年にかけての低金利環境の局面で、数年先までの資金を確保したところも多く、市場全体に対しての打撃は限られると思われる。

中国発インフレの可能性(2021/6/4)

働き手の人口減で「世界の工場」の賃金が上がり、各国の物価を押し上げる、というリスクが浮上してきている。
21年5月11日、中国の2020年国勢調査の結果が発表され、総人口が14億1178万人と10年で年平均0.53%増、そのうち65歳以上が6割もの大幅増なうえ、15〜64歳の生産年齢人口は9億6776万人とピークの13年から3800万人減、という衝撃の結果だった。
製造業への調査でも、「採用難」が最大の経営課題として挙がっている。
21年5月末には、中国共産党は夫婦に3人目の出産を認めると決定。高齢化で労働力が減少し、介護負担も増す事に警戒感を示している。

中国の賃金は2008年の金融危機後に倍増したが、人手不足は上昇に拍車をかけている。
中国には世界の生産年齢人口の約2割が集まっており、世界経済に与える影響は極めて大きい。

1980年代以降、豊富な労働力を武器に、安価な工業製品の輸出を急増させた中国は「デフレの元凶」と呼ばれた。
冷戦終結後は東欧など旧共産圏も加わり、世界経済と結びついた良質な労働力は倍増。
生産のグローバル化も相まって、世界で価格破壊が進んだ。
この結果、一時は2桁に達していた先進国のインフレ率が90年代半ばには2%台にまで急減した。
今、この流れが逆回転しはじめている。

高齢化は基本的にインフレ要因となる。
人々は引退しても消費は続けるし、介護も必要になり、人手不足で賃金も上がり、物価上昇に結びつく。
社会保障費の膨張で財政も痛むが、政治的に増税というのは難しい。
政府はインフレで実質的な債務の減額を狙うし、中央銀行も金利の抑制を求められる。
これからの世界は、物価上昇の流れは必然のように見える。

中国発のインフレ懸念は、これまで見過ごされてきた。
経済学の世界における労働力と物価の分析において、グローバルな視点が欠けていた事が一因となっている。
失業率とインフレが逆に動く事を示す「フィリップス・カーブ」にしても、国内の雇用と物価しか分析してこなかった。
故に90年代以降、物価と失業率が同時に下がると、「効果的な金融政策がフィリップス・カーブを終わらせた」とされてきた。
だが実際には、中国などの労働力供給という外的要因によって齎された物価下落であった。

90年代、中国の輸出額は世界全体のわずか数%だったが、価格破壊の波は直接の取引がない先まで広く及んだ。
中国が世界の工場となり、グローバル企業にとって必要なら中国に生産を移すという選択肢が生まれた結果、中国をにらんで賃金や価格を決めざるを得なくなり、中国が価格決定権を握る事になった。

2021年現在、中国の輸出額は世界全体の1割超に及ぶ。
物価上昇の波は、かつての価格破壊をしのぐ勢いとなる可能性がある。
生産性を高めて労働力の不足を補うという手もあるが、既に中国はITを使った自動化技術のトップランナーである。
ここから更に、人手不足を補うレベルの省力化を進めるのは容易ではない。
産児規制の緩和も気休めに過ぎず、全ての夫婦に2人目の出産を認めた16年以降も出生率は低下が続いている。

生産年齢人口は米国でもほぼ頭打ちとなっており、日本は1995年、欧州連合は2009年をピークに既に減り続けている。
インドなどを含めたG20でも、ほぼ10年後から減少に転じる見込みとなっている。
金融市場は、巨額の財政支出をきっかけにした米国発のインフレを懸念しているような状況だが、中国の人口減に端を発する人手不足インフレの方がよほど深刻で厄介な問題となっている。

貴金属上昇で貿易黒字の南アフリカ・ランド上昇(2021/6/4)

南アフリカ共和国の主要輸出産品である貴金属の価格上昇に伴い、貿易黒字が急増、通貨ランドも急騰し、対円ではおよそ2年4ヶ月うりの高値を記録している。
ただ、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う内需の不振も黒字要因になってはいる。

2021年5月末に発表された4月の南アフリカの貿易統計では、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は512億ランドの黒字となり、直接比較が可能な2014年以降で過去最大の黒字幅となった3月の525億ランドの黒字に続き、高水準。

プラチナは指標となるニューヨーク市場の先物が1トロイオンス1200ドル前後で取引され、コロナ禍で世界的にマーケットが混乱した昨年3月の安値から2倍に。
主要国の金融緩和が続き、世界的なインフレ傾向が継続すれば、今後も貴金属相場は堅調に推移すると思われる。

南アフリカの消費者物価指数は、2021年4月には前年同月比4.4%上昇とインフレ傾向を示しており、金融引き締めによる金利上昇を見込んで通貨ランドが買われている。
新規感染者数は1日当たり4000人超、ワクチン接種回数は人口100人あたり1.8回にとどまり、夜間外出禁止令が出るなど国内景気は冷え込むばかり。
冷え込む内需と輸入物価上昇に苦しむ貧乏人の国民と、貴金属の輸出で外貨ボロ儲けする金持ちとの貧富の差は拡大していくばかり。

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